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神戸地方裁判所 平成9年(行ウ)27号 判決

原告

山本英雄

原告

山本マチヱ

原告ら訴訟代理人弁護士

富田康正

被告

加古川税務署長 平野栄作

右指定代理人

岩松浩之

益野貴広

大澤正暁

新谷修一郎

牧瀬晴世

主文

一  原告山本英雄の平成四年七月二九日相続に係る相続税について、被告が平成六年六月二八日付けでなした更正処分のうち、納付すべき税額四〇三万四七〇〇円を超える部分を取り消す。

二  原告山本マチヱの平成四年七月二九日相続に係る相続税について、被告が平成六年六月二八日付けでなした更正処分のうち、納付すべき税額二八二四万三一〇〇円を超える部分を取り消す。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告山本英雄の平成四年七月二九日相続に係る相続税について、被告が平成六年六月二八日付けでなした更正処分のうち、納付すべき税額二五一万八二〇〇円を超える部分を取り消す。

二  原告山本マチヱの平成四年七月二九日相続に係る相続税について、被告が平成六年六月二八日付けでなした更正処分のうち、納付すべき税額一七五八万五五〇〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、山本清一(原告山本英雄の父、原告山本マチヱの夫)の遺産を相続した原告らの相続税につき、被告が平成六年六月二八日付けで行った更正処分について、財産(土地)の評価を誤り税額が過大となった違法があるとして、原告らが更正の請求に係る納付すべき税額を超える部分の取消しを求めた事案である。

争点は、右更正処分の適法性いかん、具体的には更正処分における土地の時価の算定が適正であるか、である。

一  争いのない事実等(証拠を掲げた事項以外は、当事者間に争いがない。)

1  本件相続開始

原告山本英雄の父であり、原告山本マチヱの夫である山本清一は、平成四年七月二九日死亡した。山本清一の相続人は、原告両名の他に、いずれも山本清一の子である、山本喜治、高橋節子、岡本徳子、山本文夫、三浦朋子及び古田幸子がいるが、共同相続人間で遺産分割はなされていない(原告山本マチヱの法定相続分は二分の一、原告山本英雄を含む子の法定相続分は各一四分の一)。

2  本件更正処分等の経緯

(一) 山本清一の共同相続人である原告らは、平成五年一月二九日、別表Ⅰ「課税の経緯」の各人の「申告」欄記載のとおり、被告に対し相続税の申告をした。

(二) 原告らは、平成六年一月三一日、その他の相続人とともに、被告に対し、同表各「更正の請求」欄記載のとおり更正の請求をした。

(三) 被告は、平成六年六月二八日付けで同表各「更正処分」欄記載のとおり原告ら及びその他の相続人に対し減額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

(四) 原告らは、平成六年八月二九日、同表各「異議申立て」欄記載のとおり、本件更正処分の一部の取消しを求めて、被告に異議申立てをした。

(五) 被告は、平成七年一月一〇日付けで、原告らの右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。

(六) 原告らは、平成七年二月一〇日、同表各「審査請求」欄記載のとおり、本件更正処分の一部の取消しを求めて、国税不服審判所長に対して審査請求をした。

(七) 国税不服審判所長は、平成九年三月三一日付けで、原告らの右審査請求をいずれも棄却する旨の決定をした。

3  山本清一の遺産である土地の評価額

(一) 原告らの当初申告における、山本清一の遺産である別表Ⅱ「1号土地ないし5号土地の所在地等及び価額の明細」の順号1ないし6の各土地(以下、合わせて「1号土地」という。)、順号7ないし9の各土地(以下、合わせて「2号土地」という。)、順号10の土地(以下「3号土地」という。)、順号11の土地(以下「4号土地」という。)、順号12及び13の各土地(以下、合わせて「5号土地」という。また、2号土地ないし5号土地を合わせて「本件各土地」という。)の評価額は、同表の「申告・評価額」欄記載のとおりであった。

(二) 更正の請求における、1号土地及び本件各土地の評価額は、同表の「更正の請求・評価額」欄記載のとおりであった。

(三) 本件更正処分は、1号土地及び本件各土地の評価額が同表の「更正処分・評価額」欄記載のとおりであるとしてなされた。

(四) 異議決定は、1号土地及び本件各土地の評価額が同表の「異議決定額・評価額」欄記載のとおりであるとしてなされた。

(五) 審査請求における、1号土地及び本件各土地の評価額は、同表の「請求人ら主張額・評価額」欄記載のとおりであった。

(六) 右審査請求棄却決定は、1号土地及び本件各土地の評価額が同表の「審判所認定額・評価額」欄記載のとおりであるとしてなされた。

4  原告鑑定評価書の内容

原告が更正の請求に当たって被告に提出した不動産鑑定士真鍋准作成の平成六年一月二五日付け鑑定評価書(乙第二号証。以下「原告鑑定評価書」という。)における本件各土地の鑑定評価の要点は、以下のとおりである。

(一) 鑑定評価の価格時点及び対象不動産の種類

平成四年七月二九日(本件相続の開始)時点における、合理的な自由市場において成立するであろう適正な価格(正常価格)を求めるものとする。

対象不動産(本件各土地)の種別(用途的区分)は、いずれも農業地域における農地で、類型(有形的利用・権利の態様による区分)は、農地の更地とする。

(二) 価格形成要因の検討

(1) 地域要因の分析

当該地域は、農家集落の直背後に位置する。一部畑地もみられる水田耕作地域である。

当該地域内の農道は幅員約二メートル前後で、地域内の画地は畦畔を造っており、不整形地も多い。

最寄駅、都心への便、消費購買施設等の便等からみた利便・接近条件は不良である。

下水道、都市ガス等の公共設備等は未整備である。

行政的条件としては第二種住居専用地域及び住居地域(建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセント)に用途指定されており、防火指定はないほか、第二種高度地区の指定がある。

また、地域の中央に都市計画道路「良野平岡線」・「尾上小野線」が計画されており、計画の進行に従い、宅地化の進行が予測される地域である。

今後は、一部地域での宅地開発が進行するほかは、現状のまま推移するものと予測される。

したがって、地域内の不動産の価格水準は周辺同類型の地域の中上位の水準にあるものと判定される。

(2) 個別的要因の分析

地域内の土地の標準的使用の現状及び将来の動向を考慮して、本件各土地の最有効使用は、農地転用、宅地化を前提として一般住宅又は専用住宅用建物敷地であると判定する。このような観点から本件各土地の個別的要因についてみると、以下のとおりである。

ア 2号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉不整形地であること、〈3〉画地の大部分が都市計画道路「良野平岡線」・「尾上小野線」に含まれていること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

イ 3号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉奥行長大地形であること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

ウ 4号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉農道にも接していないこと、〈3〉不整形地であること、〈4〉奥行長大地形であること、等が特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

エ 5号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉農道にも接していないこと、〈3〉不整形地であること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

(三) 鑑定評価額

取引事例比較法を適用して、近隣地域及び同一需給圏内の類似地域における取引事例について、事情補正、時点修正並びに地域要因及び個別的要因の補正を行って得た価格を比較考量して、地域内の標準的画地の単価を一平方メートル当たり六万七〇〇〇円と決定し、これに対象土地の個別的要因による補正を施して、更地価格を、

2号土地 一億一二六九万八〇〇〇円

3号土地 六二一二万円

4号土地 三三四七万四〇〇〇円

5号土地 二二四八万四〇〇〇円

と各々試算し、この試算価格は、公示価格を規準とした価格にもおおむね均衡しており、他の手法による価格の試算が困難であり、十分規範性があるものと認められるので、鑑定評価額と決定する。

5  甲第一号証鑑定評価書の内容

原告鑑定評価書を作成した前記不動産鑑定士真鍋准作成の平成八年一〇月一一日付け鑑定評価書(甲第一号証。以下「甲第一号証鑑定評価書」という。)における本件各土地の鑑定評価の要点は、以下のとおりである(なお、甲第一号証鑑定評価書においては、4号土地を第2号物件、5号土地を第3号物件、2号土地を第4号物件、3号土地を第5号物件としている。)。

(一) 鑑定評価の価格時点及び対象不動産の種類

平成八年一〇月七日時点における、合理的な自由市場において成立するであろう適正な価格(正常価格)を求めるものとする。

4号土地の種別(用途的区分)は、農地・普通住宅混在地域における宅地見込地で、類型(有形的利用・権利の態様による区分)は、宅地見込地の更地とする。

その余の本件各土地(2号土地、3号土地及び5号土地)の種別(用途的区分)は、農業地域における農地で、類型(有形的利用・権利の態様による区分)は、農地の更地とする。

(二) 価格形成要因の検討

(1) 地域要因の分析

ア 4号土地

当該地域は、農家住宅及びその周辺農地と最近ミニ開発された一般住宅もみられる農家住宅、普通住宅混在地域である。

既存の農家住宅地域は、街区の整然性、街路の連続性及び幅員等が全般的にやや不良な地域であって、建物の規模品等、用途的な純化度からみた住宅地としての環境条件はやや劣るものである。

普通住宅地域は、ミニ開発された地域で、街区の整然性及び街路の幅員等はおおむね良好であるが、既存住宅地域との街路の連続性はやや不良な地域であって、建物の規模品等、用途的な純化度からみた住宅地としての環境条件は普通程度である。

地域全体としての最寄駅、都心への便、消費購買施設等の便等からみた利便・接近条件はやや不良である。

下水道は整備されているが、都市ガス等の公共設備等は未整備である。

行政的条件としては第一種中高層住居専用地域(建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセント)に用途指定されており、防火指定はないほか、第二種高度地区の指定がある。

今後は、住宅地域は建物の建替えが徐々に進行するほかは、現状のまま推移し、未利用地及び街路条件の整った農地等は宅地化がさらに進行するものとは予測される。

したがって、地域内の不動産の価格水準は周辺同類型の地域の中上位の水準にあるものと判定される。

イ 2号土地、3号土地及び5号土地

当該地域は、農家集落の直背後に位置する、一部畑地もみられる水田耕作地域である。

当該地域内の農道は幅員約二メートル前後で、地域内の画地は畦畔を造っており、不整形地も多い。

最寄駅、都心への便、消費購買施設等の便等からみた利便・接近条件は不良である。

下水道、都市ガス等の公共設備等は未整備である。

行政的条件としては第一種中高層住居専用地域(建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセント)に用途指定されており、防火指定はないほか、第二種高度地区の指定がある。

また、地域の中央に都市計画道路「良野平岡線」・「尾上小野線」が計画されており、計画の進行に従い、宅地化の進行が予測される地域である。

したがって、地域内の不動産の価格水準は周辺同類型の地域の中上位の水準にあるものと判定される。

(2) 個別的要因の分析

地域要因の分析の結果から、近隣地域内の不動産の標準的使用を前提とした最有効利用は、〈1〉住宅地域は農家住宅又は専用住宅、一般住宅用建物敷地であり、〈2〉農地及び未利用地は、農地転用、宅地化を前提として一般住宅又は専用住宅用建物敷地であると、各々判定される。このような観点から本件各土地の個別的要因についてみると、以下のとおりである。

ア 4号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないが水路を介して市道に接していること、〈2〉奥行長大地であること、〈3〉南側市道部分と高低差(マイナス八〇センチメートル)があること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

イ 2号土地、3号土地及び5号土地

(ア) 2号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉不整形地であること、〈3〉画地の大部分が都市計画道路「良野平岡線」・「尾上小野線」に含まれていること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

(イ) 3号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉奥行長大地であること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

(ウ) 5号土地

〈1〉道路(建築基準法四二条三項)に接していないため、建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、〈2〉農道にも接していないこと、〈3〉不整形地であること、等が主な特徴であり、以上を総合した価格形成要因は、地域内の標準的画地に比較して劣るものと判定する。

(三) 鑑定評価額

(1) 4号土地については、取引事例比較法を適用した比準価格単価及び控除方式(対象不動産を分譲用宅地として分割、販売することを想定し、その販売総額から造成工事費等を控除して販売時点における素地価格を求め、これに熟成度修正を行って求める。)により、4号土地の標準的画地の更地価格単価につき、〈1〉比準価格単価を一平方メートル当たり七万五〇〇〇円、〈2〉控除方式による価格を一平方メートル当たり八万〇一〇〇円と試算した上、両方式による価格単価を検討して、より信頼性の高い比準価格を規準とし、控除方式による価格単価を参酌して、標準的画地の更地単価を、一平方メートル当たり七万五〇〇〇円と決定し、これに個別的要因による補正を施して、更地価格を四五四〇万円と試算した。

(2) 2号土地、3号土地及び5号土地については、比準価格単価により、標準的画地の更地価格単価を、一平方メートル当たり六万五〇〇〇円と決定し、これに個別的要因による補正を施して、更地価格を、

2号土地 一億一三〇〇万円

3号土地 七三五〇万円

5号土地 二四四〇万円

と各々試算した。

(3) 右各試算価格は、公示価格を規準とした価格にもおおむね均衡しており、他の手法による価格の試算が困難であり、十分規範性があるものと認められるので、鑑定評価額と決定する。

二  争点=本件更正処分の適法性いかん(本件更正処分における本件各土地の時価の算定が適正であるか)についての当事者の主張

(被告の主張)

1 財産評価基本通達に基づく評価について

(一) 相続税法二二条の時価の意義

相続税法(ただし、平成六年法律第二三号による改正前のもの。以下同じ。)二二条は、相続財産の価額は、特別の定め(相続税法二三条ないし二六条)のあるものを除く外、財産の取得の時における「時価」により評価する旨規定しているところ、右の「時価」とは、相続財産の客観的な交換価値、すなわち不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額をいうものと解されるが、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、これらの各財産の通常の取引価格は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、国税庁においては、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六・直審[資]一七国税庁長官通達。ただし、平成五年六月二三日付け課評二―七・課資二―一五六による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)を定め、内部的な取扱いを統一するとともに、これを公開して納税者の申告・納税の便に供し、もって申告及び課税事務の公平、迅速で円滑な運用に資することとしているところである。

したがって、評価基本通達のこのような性格に照らすと、相続税に係る財産の評価に当たっては原則として同通達によるべきであるということができる。

(二) 評価基本通達における土地の時価評価の方法

(1) 路線価方式

評価基本通達一一項は、宅地の評価方法として路線価方式による評価及び倍率方式による評価について規定している。そして、本件各土地は路線価方式により評価される地域に所在するから、路線価方式によって評価されることになる。

(2) 市街地農地の評価方法

ア 評価基本通達四〇項

本件各土地は市街地化区域内にある農地であるから、評価基本通達においては市街地農地に区分され(同通達三六―四項〈2〉)、その評価方法は、同通達四〇項によることとなる。そして、同通達四〇項は、「市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の一平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる一平方メートル当たり造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する。」と規定している。

右の評価基本通達による市街地農地の評価は、市街化区域内の農地が市街地に近接する宅地化傾向の強い農地であるため(市街化調整区域内の農地は知事の許可を受けなければ転用することができないが、市街化区域内の農地については、農業委員会へ単に届出をするだけで、宅地に転用できることから、宅地としての潜在的評価を有している。)、付近の宅地価格の影響により、農地としての価額よりもむしろ宅地の価額に類似する価額で取引されているのが実情であることを考慮したものであり、具体的には、評価しようとする農地が宅地であると仮定して評価基本通達により計算した価額から、宅地に造成するために要する土盛り・整地等の造成費相当額を控除する方法によることとしたものである。

イ 控除すべき宅地造成費相当額

右アの控除すべき宅地造成費相当額の金額は、各国税局長が毎年公表している評価基準書において定められているが、宅地造成費に関する宅地造成業者等の精通者の意見価格を基に、市街化区域内の農地の売買実例価額等も参酌して各国税局長が評定したものであり、農地を宅地に造成する際に必要な造成費の価額を合理的に算定したものである。

(3) 各種補正

ところで、前記の路線価方式は、その宅地の面する路線に付された路線価を基として、以下のとおり評価基本通達一五項ないし二〇項の各種画地調整率による補正を行うものであり、評価しようとする個々の土地の状況がその評価額に適正に反映するよう配慮されている。

ア 奥行価格補正

評価基本通達一五項は、一方のみの路線に接する宅地については、路線価にその宅地の奥行距離に応じた奥行価格補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて計算した価額によって評価すると定めている。

イ 不整形地補正

評価基本通達二〇項〈1〉は、不整形地については、標準的な整形地としての価額として評価した上で、その不整形の程度等に応じて三割の範囲内で相当と認められる割合を控除した価額によって評価すると定めている。

ウ 無道路地補正

評価基本通達二〇項〈2〉は、無道路地については、無道路地と実際に通路等として利用している路線に接する宅地等を合わせて評価した価額から無道路地以外の宅地の価額を控除した価額を基として、無道路地が利用の制限を受ける度合いに応じて三割の範囲内で相当と認められる割合を控除した価額によって評価すると定めている。

エ 袋地補正

なお、評価基本通達二〇項〈3〉は、袋地等については、奥行価格補正の定めにより計算した一平方メートル当たりの価額に、それぞれ間口狭小補正率、奥行長大補正率を乗じ、これに地積を乗じて計算した価額によって評価すると定めている。

(三) 評価基本通達による本件各土地の時価の算定

(1) 基準とすべき路線価

本件各土地の路線価は、2号土地が、一平方メートル当たり一六万四〇〇〇円、3号土地ないし5号土地が、一平方メートル当たり一一万五〇〇〇円となる(別表Ⅲ「本件土地の価額算定表」の「〈2〉路線価」欄の本件各土地欄参照)。

(2) 各種補正

ア 奥行価格補正

本件各土地について、右路線価に対して、まず、路線からの奥行距離に応じて奥行価格補正を行っている(別表Ⅲの「〈3〉奥行価格補正率」欄参照)。

イ 不整形地補正

本件各土地について、評価基本通達二〇項〈1〉の定めに従い不整形地補正として、最大限である三〇パーセントの補正を行っている(別表Ⅲの「〈4〉不整形地補正率」欄参照)。

ウ 無道路地補正

4号土地及び5号土地については、路線に接する進入路がないことから、評価基本通達二〇項〈2〉の定めに従い無道路地補正として、路線から4号土地及び5号土地に入るための通路部分として想定した宅地の評価額(別表Ⅲの「〈7〉無道路地補正」欄参照)を控除している。

エ 袋地補正

なお、評価基本通達二〇項〈3〉は、不整形地及び無道路地を袋地補正の対象から除外している。

オ 宅地であると仮定した場合の価額

そこで、本件各土地のそれぞれについて右各補正後の路線価に面積を乗じると、本件各土地が宅地であると仮定した場合の価額が算出される(別表Ⅲの「〈8〉宅地としての評価額」欄参照)。

(3) 宅地造成費相当額の控除

右算出額から宅地造成費相当額(別表Ⅲの「〈9〉造成費相当額」欄参照)を控除した価格が本件各土地の価格であり(別表Ⅲの「〈10〉土地評価額」欄参照)、その合計額は四億二九一八万〇九八五円となる。

(4) まとめ

以上のとおり、評価基本通達に基づく本件各土地の評価額の合計額は、四億二九一八万〇九八五円となるところ、被告が本件更正処分において算定した本件各土地の価額は、三億〇四一四万四八八七円(別表Ⅱの「更正処分」欄の「本件土地の価額」欄参照)であり、被告が本件訴訟で主張する右価額の範囲内である。

2 本件における「特段の事情」の存否について

(一) 評価基本通達によらない評価

評価基本通達の性格に照らすと、相続税に係る財産の評価に当たっては原則として同通達によるべきであるということができることは前記1(一)記載のとおりであるが、相続税法二二条にいう「時価」の評価は、必ずしも評価基本通達の定める評価方法を適用して行わなければならないというものではなく、評価基本通達に従って課税価格を算定することが負担の実質的公平を損なうなど著しく不合理な結果になると認められる特段の事情がある場合には、評価基本通達によらず、他の適正、妥当な合理的と認められる方法により評価すべきものというべきである。

(二) 本件における右「特段の事情」の不存在

原告らは、更正の請求に当たって被告に提出した原告鑑定評価書に記載された鑑定評価額(以下「原告鑑定評価額」という。)が本件各土地の適正な時価であるので、本件各土地については評価基本通達に従って課税価格を算定することが著しく不合理な結果になると認められる特段の事情があると主張するものと解される。

しかし、原告鑑定評価書には、以下の(1)ないし(4)のとおり種々の問題点が認められるところであり、原告鑑定評価額が本件各土地の適正な時価であると考えることはできないから、本件各土地について評価基本通達に従って課税価格を算定することが著しく不合理な結果になると認められる特段の事情があるということはできない。

(1) 本件各土地の種別の点

ア 鑑定基準にいう不動産の種別

原告鑑定評価書によれば、不動産鑑定評価基準(平成二年一〇月二六日付け2国鑑委第二五号により土地鑑定委員会が国土庁長官に答申したもの。以下「鑑定基準」という。)に示された倫理規定を遵守して評価した旨記載されているところ、鑑定基準における土地の種別は、「その土地の属する用途的地域の種別に基づいて判定されるものであり、必ずしもその土地の現実の利用方法と一致するものではな」く、「例えば、現に耕作の用に供されている土地(いわゆる現況農地)であってもその土地の属する用途的地域の種別が宅地地域である場合は鑑定評価上その土地は宅地と判定され、宅地としての標準的使用を基礎として価格形成要因の分析が行われることとなる」と解されている。

イ 本件各土地の種別の判断を誤っていること

本件各土地は、

〈1〉 市街化区域(すでに市街地を形成している区域及びおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に宅地化を図るべき区域)内の土地であること、

〈2〉 都市計画法八条一項一号にいう第二種住居専用地域(中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域)に用途指定されていること、

〈3〉 市街化区域内の土地であるため、農地から宅地へ転用するには農業委員会に届出をするだけでよいことから、いわば宅地としての潜在的価値を有しているといえること、

〈4〉 生産緑地地区の指定は受けていないから、農地のままで利用しなければならないという法的な制限はないこと、

〈5〉 その存する地域内に、都市計画道路である「尾上小野線」及び「良野平岡線」が計画されており、更に、平成二年一二月一五日に市道の認定を受けた市道加古川中央線が新設されていること、

〈6〉 原告鑑定評価書が、その「最有効使用は、農地転用、宅地化を前提として一般住宅又は専用住宅用建物敷地であると判定する」としたことは、近い将来において、宅地化されるであろうと判定したことになること、

〈7〉 その存する地域は、実際に近年宅地化が進んでいること、

〈8〉 4号土地につき、平成四年七月二九日を価格時点とする原告鑑定評価書では「農業地域における農地」とされているが、平成八年一〇月七日を価格時点とする甲第一号証鑑定評価書では、「農地・普通住宅混在地域における宅地見込地」と変更されていること、

等からすれば、宅地見込地地域(農地地域から宅地地域へと転換しつつある地域)内の宅地見込地であるから、これを「農業地域内の農地」であると判定した原告鑑定評価書は本件各土地の種別の判断を誤っている。

なお、2号土地については、右〈5〉の都市計画道路の区域になっているが、都市計画法上(五四条)、全く建物が建てられないというものではない(2号土地の東側隣接地は、実際に宅地開発され、住宅が建設されている。)。

ウ 土地の種別と鑑定方法との関連性

鑑定基準は、農地の鑑定評価については、「比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するもの」としているのに対し、宅地見込地の鑑定評価については、「比準価格及び当該宅地見込地について、価格時点において、転換後・造成後の更地を想定し、その価格から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の熟成度に応じて適正に修正して得た価格を関連づけて決定するもの」としており(鑑定基準各論第1一の(二)及び(四))、土地の種別が異なることによってその鑑定手法にも差異が生じることになる。

したがって、本件各土地の種別は右イ記載のとおり宅地見込地地域内の宅地見込地であるにもかかわらず、農地地域内の農地であることを前提として鑑定評価を行った原告鑑定評価書は、鑑定手法自体が失当であるから、これに示された原告鑑定評価額は信用性に乏しい。

(2) 地域要因の比較の点

原告鑑定評価書では、本件各土地の地域の種別は「農業地域」であり、近隣地域の地域特性について標準的使用の状態を「水田耕作地域」と判定した上で、取引事例Bと本件各土地の存する地域の標準的画地との地域要因の比較について、環境条件の項目で取引事例Bの方が二二パーセント優っているとの補正を行っている。

しかし、右取引事例Bは、その取引時点においては市街化区域内の農地であったのであり、本件各土地の存する地域の標準的画地も同様に市街化区域内の農地であることからすると、環境条件において二二パーセントもの補正をするほど優っているとは認め難い。

そもそも、原告鑑定評価書では、他の条件項目は算定の根拠が記載されているにもかかわらず、環境条件項目のみすべての取引事例についてその根拠が記載されておらず、このことに恣意性が介在しているのではないかとの疑いが残るところである。

(3) 個別的要因による補正の点

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、不動産の価格を形成する要因(価格形成要因)を明確に把握し、かつ、その推移及び動向並びに諸要因間の相互関係を十分に分析して、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に及ぼすその影響を判定することが必要であり、その価格形成要因は、一般的要因、地域要因及び個別的要因に分けられるとされているところ、個別的要因とは、「不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう」。

ア しかるに、原告鑑定評価書によれば、個別的要因として、2号土地についてはマイナス三八パーセント、3号土地についてはマイナス四八パーセント、4号土地についてはマイナス五三パーセント、5号土地についてはマイナス五八パーセントの補正がなされているが、その根拠としては、本件各土地が道路(建築基準法四二条三項)に接していないため建築確認申請の許可が得られないなど宅地として転用することが困難であること、不整形地であること等のため、地域内の標準的画地に比較して劣ることを挙げるのみで(一四及び一五ページ)、右個別的要因による補正の詳細は不明である。

もともと、本件各土地の存する地域の標準的画地は幅員二メートル程度の農道に沿っていることを街路条件としている土地を想定しているのであるから、標準的画地自体も建築基準法上の道路には接していない土地であり、そもそも標準的画地と本件各土地との比較において個別的要因としての補正をする必要がないはずである。

イ さらに、個別的要因とは、前記のとおり「不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう」のであるから、本件各土地の個々の土地の個別的要因は当然に異なるものと考えられるが、原告鑑定評価書では、本件各土地の個別的要因を判断するについて本件各土地が詳細に検討されているとは到底考えられない(特に、「接面街路条件」の「舗装」の欄には、「アスファルト」と記載されているが、アスファルトの道路に面しているのは4号土地のみであり、その他の各土地は、アスファルトの道路に接していないはずである。)。

そもそも、本件各土地の個別的要因を原告鑑定評価書の土地状況調査表2のみで判断されたのであれば、本件各土地の個別的要因に差異は生じないはずであり、右ア記載のような差異が生ずること自体全く不自然である。

(4) 規準とすべき公示価格の選択の点

ア 地価公示法は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もって適正な地価の形成に寄与することを目的としており(地価公示法一条)、土地鑑定委員会は、都市計画法四条二項に規定する都市計画区域内の標準地について、毎年一回、二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、毎年一月一日における当該標準地の単位面積当たりの正常な価格を判定し、これを公示するものとされている(地価公示法二条一項、同法施行規則一条)。また、右「正常な価格」とは、土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格をいうと定められている(地価公示法二条二項)。

イ ところで、前記1(一)のとおり相続税法二二条にいう「時価」とは、客観的な交換価値、すなわち不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額をいうものと解されるところ、この相続税法二二条にいう「時価」と右アの地価公示法にいう「正常な価格」とは、本来は同一の価格を指向する概念ということができる。

評価基本通達においても、土地の評価のうち、宅地の評価は、原則として、市街地的形態を形成する地域にある宅地については、その宅地の面する路線に付された路線価を基準とする方式によって行うこととされており、この路線価は、当年一月一日時点を評価時点とし、売買実例価額、地価公示価格、精通者意見価格等を基として、地価公示価格と同水準の価格の八〇パーセント程度を目途に定められていることから、右地価公示価格を適正に反映しているといえる。

ちなみに、原告らは、無道路地は、時価の二分の一以下というのが相場である旨主張するが、本件各土地のうち無道路地である4号土地及び5号土地については、本件更正処分においても時価の二分の一以下と算定されているのである。すなわち、地価公示価格の水準より二〇パーセント程度低い水準にある路線価が、4号土地及び5号土地ともに一一万五〇〇〇円(公示価格水準の価額では、一四万三七五〇円となる。)であり、右価額に無道路地補正のみならず、奥行価格補正及び不整形地補正をした結果、評価額をそれぞれ五万七七六二円、五万八三四九円と算出したのである(別表Ⅲの「4号土地の価額」欄及び「5号土地の価額」欄参照)。したがって、本件更正処分における4号土地及び5号土地の評価額は、土地の正常価格である地価公示価格の水準の二分の一以下の金額で評価されているのであるから、原告らの主張は全く当を得ておらず、評価基本通達によっても、無道路地である4号土地及び5号土地の評価額を適正に算定できるということができるのである。

ウ また、不動産鑑定士及び不動産鑑定士補が、都市計画法四条に規定する都市計画区域内の土地の鑑定評価を行う場合において、当該土地の正常な価格を求めるときは、同法六条の規定により公示された標準地の価格(地価公示価格)を規準としなければならないとされ(地価公示法八条)、また、土地の取引を行う者は、取引の対象土地に類似する利用価値を有すると認められる標準地について公示された価格を指標として取引を行うよう努めなければならないとされている(地価公示法一条の二)。

エ そして、鑑定基準第八の八は、鑑定評価額の決定に当たっては、「地価公示法第二条第一項の都市計画区域において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない」と規定しており、原告鑑定評価書も、公示価格を規準として採用してはいる。

しかしながら、原告鑑定評価書は、本件各土地が市街化区域内に存し、かつ、本件各土地の存する地域から直線距離で約三〇〇メートルの標準地番号加古川―一一(加古川市野口町長砂字東池ノ向九七番二〇)及び同じく約八〇〇メートルの標準地番号加古川―二二(加古川市野口町字小池五一八番一四)が市街化区域内の公示地として存在するにもかかわらず、あえて、それよりも遠方(直線距離で約九キロメートル)にあり、かつ、都市計画法上の規制や農地法上の農地転用の制限等の行政条件が明らかに異なる市街化調整区域内にある標準地番号加古川一〇―一(加古川市八幡町宗佐字町前四五二番)公示地を採用している。

したがって、原告鑑定評価書は、本件各土地を鑑定評価するには不適格な公示地を採用したといわざるを得ず、そのような不適格な公示地を採用して算定された原告鑑定評価額は公示価格との均衡を考慮して適正に算定されたものとはいえない。

3 甲第一号証鑑定評価書を基にした本件各土地の時価の算定

なお、平成八年一〇月七日を価格時点とする甲第一号証鑑定評価書を基に本件各土地を宅地見込地としてその相続開始時点における価格の算定を行うと、以下のようになる。

甲第一号証鑑定評価書では、4号土地の標準的画地の単価価格である七万五〇〇〇円がその当時の本件各土地すべての標準的画地の単価価格と考えられることから、右単価を基に、甲第一号証鑑定評価書でなされている個別的要因による補正を行い、地積を乗じ、さらに相続開始時点までの時点修正を行うことにより、課税時点における本件各土地の時価を算出すると、その合計額は、別表Ⅳ(「甲第一号証による本件各土地の価格算定表」)のとおり、三億〇八三八万一一六七円となる。

このように、甲第一号証鑑定評価書を基に宅地見込地として算出した右価額が、本件更正処分における本件各土地の合計額である三億〇四一四万四八八七円を上回っていることからしても、本件課税処分は適法である。

(原告らの主張)

1 税務行政を公平・迅速・円滑になすために、原則として通達に従って処理されるべきであることは被告の主張するとおりであるが、以下に述べるとおり、本件においては、被告のいう「評価基本通達に従って課税価格を算定することが著しく不合理な結果になると認められる特段の事情」が存在する。

2 評価基本通達による「市街地農地」の評価方法の根拠が、被告の主張するように、市街地に近接する宅地化傾向の強い農地であるため、付近の宅地価格の影響により、農地としての価額よりもむしろ宅地の価額に類似する価額で取引されているのが実情である、ということにあるのであれば、本件のようにそのような実情が存在しない場合については、右評価方法は妥当しない。

(一) 本件各土地に近い土地で宅地化された土地がいくつか存在するが、これらはすべて、道路が新設され、その新設道路に接道しているからこそ宅地化されたものである。つまり、接道しているおかげで宅地化されたものであり、この意味で、接道されている土地で現況農地の土地について「宅地見込地」と評価されることについては何の異論もない。けだし、宅地化が十分に見込めるからである。

しかし、接道していない農地については、近い将来宅地化が見込めるということはできない。もちろん、同じような条件を抱えた農地の所有者が、一斉に宅地とするべく農業をやめ、お互いに私道とはいえ道路を造ったとしたら、宅地化が可能かもしれないが、これは論理的にはそのように考えられるというだけのことであり、そのようなごくわずかの可能性をもって「宅地見込地」と評価するのであれば、日本の全国土はすべて「宅地見込地」となってしまう。また、道路に接するまでの他の農地の所有者が、原告らのために二メートルの幅で農地を譲渡してくれるのであれば、宅地化は可能であるが、このような可能性が存在することをもって宅地「見込地」と評価するというのであれば、それは反論するにも足らないものである。「見込地」は、それなりに蓋然性の高いものでなければならず、論理的に可能性が否定できない、というようなものでは足らないはずである。

(二) 接道していない農地である本件各土地をもって、一〇年以内に宅地化される蓋然性が大きい、つまり、一〇年以内に建築基準法上の道路が本件各土地に接着して造成される可能性が高い、又は本件各土地のために隣接農地所有者が道路に達するまで幅二メートルの土地を売却してくれる蓋然性が高い、と考えられる合理的根拠はない。

素直に考えれば、本件各土地は一〇年後も同じように農地であり、一〇年後に多少変化があるとすれば現在接道している周辺の農地が宅地化されているだけと考えるべきものであろう。このことは、過去一〇年の本件各土地を含む周辺の農地において、新たに道路ができて、この道路に接道している農地しか宅地になっていないことからも明らかである(なお、5号土地の西方の宅地化部分は、建築基準法上の道路のないところに、違法な申請手続で業者が建築を強行したものである。)。

(三) 被告は、道路予定地になっている土地(2号土地)についても、「都市計画法上(五四条)、全く建物が建てられないというものではない」から、宅地見込地とするのに何ら問題はないと主張するもののようである。

たしかに、あと五〇年も一〇〇年もしなければ現実に道路はつかないであろう、という地域であれば、あえてこのように評価することも不可能ではないかもしれない。しかし、本件では道路建設はすぐそばまで迫っているのであり、そのような状況のもとで、建物を建築するということを考えるのは現実的ではない。

また、右道路予定地となっている土地は、農地としての価値でしか収用しないとされているが、同じ公権力が、一方で「宅地見込地」として評価して相続税を課税し、他方で農地としての評価でしか収用しない、というのは背理である。

(四) 本件各土地が生産緑地でないことは被告主張のとおりであるが、これは、本件各土地が相続物件であるため、相続人全員の合意が得られなかったのでその申請ができなかったというにすぎない。生産緑地でないから宅地見込地である、ということにはならない。

(五) 前記「特段の事情」は、当該土地を基準に考えるべきものである。極論するならば、当該土地を含む周りの土地がすべて「宅地見込地」であるとしても、当該土地だけは宅地化される見込みが非常に少ないのであれば、それは「宅地見込地」内にある土地であったとしても、課税の上で例外を認める「特段の事情」があると評価すべきものである。

3 公道に接面しないいわゆる無道路地は、欠陥宅地(建物が建たない宅地)として時価の二分の一以下というのが、おおざっぱな通り相場である。

4 仮に宅地見込地とされても、評価に当たって、鑑定基準では、被告主張のように当該宅地見込地の「熟成度」に応じて適正に修正して得た価格を関連づけて決定する、とされているはずであるが、被告の算定にはこの修正が施されていない。

5 評価基本通達は、相続税評価の基準となる路線価が時価の半分以下であることを前提として通用していたためにさほど問題になっていなかったところ、近年の路線価の時価並みへの引き上げにより、評価額が時価を超える逆転現象が生じるなど、路線価評価の精度の低さ及び個別的要因による補正率の低さ(不整形地補正及び無道路地補正が三割を限度とする範囲内でしか行われないのは納得できるものではない。)等からくる評価基本通達のみに基づく評価の不合理性が現実化してきており、本件各土地についても、評価基本通達に基づく被告主張の評価額は、左記時価を超えるものである。

2号土地 一億一二六九万八〇〇〇円

3号土地 六二一二万円

4号土地 三三四七万四〇〇〇円

5号土地 二二四八万四〇〇〇円

合計 二億三〇七七万六〇〇〇円

第三当裁判所の判断

一  相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価される(相続税法二二条)。ここにいう「時価」とは、相続開始時における相続財産の客観的交換価値、すなわち、通常の取引価格と解するのが相当である。

もっとも、相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、これらの各財産の通常の取引価格は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、国税庁においては、評価基本通達を定め、内部的な取扱いを統一するとともに、これを公開して納税者の申告・納税の便に供し、もって申告及び課税事務の公平、迅速で円滑な運用に資することとしているところである。評価基本通達のこのような性格に照らすと、相続税に係る財産の評価に当たっては、もとより、常に評価基本通達によるべきものとまではいえないものの、原則として同通達によるのが相当であるということができる。

しかしながら、評価基本通達に従って課税価格を算定することが負担の実質的公平を損なうなど著しく不合理な結果になると認められる特段の事情がある場合には、同通達によらず、他の適正、妥当な合理的と認められる方法により評価すべきものと解される。

二  本件各土地が市街化区域内にある農地であり、評価基本通達においては市街地農地に区分されること、評価基本通達によれば被告主張のような評価方法で評価されることは原告も争わないところであり、弁論の全趣旨によれば、その具体的評価額は被告主張の合計四億二九一八万〇九八五円となることが認められる。

三  そこで、本件において、評価基本通達に従って課税価格を算定することが著しく不合理な結果になると認められる特段の事情があるか否かについて、判断する。

1  原告鑑定評価書による本件各土地についての鑑定評価の内容は、前記第二の一の争いのない事実等4のとおりであるところ、原告鑑定評価書による本件各土地の評価額が本件各土地の適正な時価を示すものであれば、本件各土地の時価は前記第二の二の原告らの主張5記載のとおりということになり、評価基本通達に基づく評価は「時価」を超えるものであって、評価基本通達に従って課税価格を算定することが著しく不合理な結果になると認められる特段の事情があるということができるので、以下、原告鑑定評価書による鑑定評価の内容について検討する。

(一) 本件各土地の種別について

(1) 証拠(乙二、三)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告鑑定評価書には、鑑定評価に当たって、鑑定基準に示された倫理規定を遵守して実施した旨記載されている。鑑定基準にいう不動産の種別とは、不動産の用途に関し区分される不動産の分類をいい、そのうち地域の種別は、宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられ、さらに、それらの各地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域がある。また、土地の種別は、地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、宅地(宅地地域の内にある土地)、農地(農地地域の内にある土地)、林地(林地地域の内にある土地)、見込地、移行地等に分けられ、その見込地とは、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域の内にある土地をいい、宅地見込地、農地見込地等に分けられる。このように、土地の種別は、その土地の属する地域の用途的種別に基づいて判定されるものであり、必ずしもその土地の現実の利用方法と一致するものではない。

(2) 原告鑑定評価書が本件各土地を「農業地域内の農地」であると判定していることは前記第二の一の争いのない事実等4(一)記載のとおりであるが、前記争いのない事実等に証拠(甲一~八[技番を含む]、乙二)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

ア 本件各土地は、加古川市南部に位置する野口町良野地区内にあり、北側から東側にかけて県道二見・加古川線、南側を県道野口・尾上線、西南側を市道加古川中央線(平成二年一二月一五日市道認定)、北西側を通称別府川に囲まれた地域内にあるところ、この地域は、都市計画法四条二項に規定する都市計画区域の同法七条二項に規定する市街化区域(すでに市街地を形成している区域及びおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域)である。

イ 本件各土地は、相続開始時において都市計画法(平成四年法律第八二号による改正前のもの)八条一項一号にいう第二種住居専用地域(中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域)及び住居地域(主として住居の環境を保護するため定める地域)に用途指定されている。なお、平成八年一〇月七日時点においても同法(右改正後のもの)八条一項一号にいう第一種中高層住居専用地域(中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域)に用途指定されている。

ウ 本件各土地は相続開始時において農地であったが、生産緑地法三条に規定する生産緑地地区の指定は受けていない。

エ 本件各土地の存する地域内には、都市計画道路「尾上小野線」・「良野平岡線」が計画されており、原告鑑定評価書においても、右計画の進行に従い、宅地化の進行が予測される地域であるとされている。

オ 原告鑑定評価書において、本件各土地の最有効使用は、農地転用、宅地化を前提として一般住宅又は専用住宅用建物敷地であると判定するとされている。

カ 昭和六〇年一一月四日時点における本件各土地の周辺地域の状況は、別紙1(甲五)のとおりであり、平成三年一〇月二〇日の時点では別紙2(甲六)のとおり、平成六年五月九日の時点では別紙3(甲七)のとおりである。

また、本件各土地及び1号土地の周辺地域において、平成七年版の住宅地図(甲第四号証の1ないし4)作成時には農地等であったが、平成一〇年九月発行の平成一一年版の住宅地図(甲第二号証の2)作成時には宅地化されていた部分は、おおむね別紙4に紫色で示したとおりである(同図面の赤色部分は1号土地、緑色部分は2号土地、青色部分は3号土地、橙色部分は4号土地、黄色部分は5号土地を示す。)。なお、2号土地の東隣の宅地化された土地の一部には、都市計画道路「良野平岡線」が計画されている。

キ 4号土地の不動産の種別について、平成四年七月二九日を価格時点とする原告鑑定評価書では、「農業地域における農地」と判断されているが、平成八年一〇月七日を価格時点とする甲第一号証鑑定評価書では、「農地・普通住宅混在地域における宅地見込地」と変更されている。

(3) 右認定事実に、〈1〉土地の所有者は、市街化調整区域内の農地については、知事(一定の場合には、農林水産大臣)の許可を受けなければ、宅地に転用したり、宅地に転用するため他人に権利を移動したりすることができないが、市街化区域内の農地については、農業委員会に単に届出をするだけで、そのようなことができること(農地法四条及び五条参照)、〈2〉市街化区域内にある農地でも、生産緑地地区の指定を受けた区域内の土地(生産緑地)については、使用又は収益をする権利を有する者はこれを農地等として管理しなければならず、生産緑地地区内において建築物その他の工作物の新築・改築・増築・宅地の造成・土石の採取その他の土地の形質の変更をするには、市町村長の許可を受けなければならない旨規定されている(生産緑地法七条及び八条参照)が、生産緑地地区の指定を受けていなければ、当該土地を農地のままで利用しなければならないという法的な制限はないこと、〈3〉道路計画決定がされている土地であっても、都道府県知事は、建物の建築許可の申請があった場合、ⅰ階数が二以下で、かつ、地階を有しないこと、ⅱ主要構造部(建築基準法二条五号に定める主要構造部をいう。)が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造その他これらに類する構造であることとの要件に該当し、かつ、容易に移転し又は除却することができるものであると認めるときは、その許可をしなければならない旨規定されていること(都市計画法五四条)、〈4〉鑑定基準にいう土地の種別は、個々の土地の個別的要因によって判断されるべきものではなく、当該土地の存する地域の概念によって判断されるべきものであること、〈5〉前記(2)カの事実からすると、本件相続開始の前後を通じ、本件各土地の周辺地域においては現実に宅地化がある程度進行してきていると評価することができること、〈6〉原告らは、5号土地の西方の宅地化部分(別紙4参照)は、建築基準法上の道路のないところに、違法な申請手続で業者が建築を強行したものであると主張するが、右宅地化部分の建物が原告らの主張するような違法な建築確認申請に基づき建築されたものであると認めるに足りる証拠はないこと、等の事情を総合して判断すると、本件各土地の種別は、農地地域内の農地ではなく、宅地見込地地域内の宅地見込地であると認めるのが相当である。

以上に反する原告らの主張は、いずれも採用することができない。

(二) 土地の種別と鑑定方法との関連性について

証拠(乙三)によれば、鑑定基準は、農地の鑑定評価については、比準価格を標準とし、収益価格を参考として決定するものとしているのに対し、宅地見込地の鑑定評価については、比準価格及び当該宅地見込地について、価格時点において、転換後・造成後の更地を想定し、その価格から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の熟成度に応じて適正に修正して得た価格を関連づけて決定するものとしていることが認められ、土地の種別が異なることによってその鑑定手法にも差異が生じることになる。

したがって、原告鑑定評価書による本件各土地の鑑定評価は、右(一)説示のとおり本件各土地の種別が宅地見込地地域内の宅地見込地であるにもかかわらず、農地地域内の農地であることを前提として行ったものであるから、鑑定の方法自体に問題があることになり、これに示された原告鑑定評価額は採用し難いものといわざるを得ない。

(三) まとめ

そうすると、原告鑑定評価書による本件各土地の評価額が本件各土地の適正な時価を示すものであると認めることはできないから、原告鑑定評価書によっては、冒頭説示の「特段の事情」があるということはできない。

2  次に、甲第一号証鑑定評価書による本件各土地の平成八年一〇月七日時点における鑑定評価の内容は、前記第二の一の争いのない事実第5のとおりであるが、4号土地については、宅地見込地として、比準価格と控除方式による価格を関連づけてその標準的画地の単価価格を七万五〇〇〇円と決定しており、その評価手法にはおおむね問題がないものと認められる(基準とすべき公示価格の選択が不適当であったとしても、用いられた四つの取引事例の事情補正・時点修正・地域格差修正・個別的要因標準化後の価格はいずれも七万四二〇〇円から七万六一〇〇円の間に算定されており、より適当な公示価格を選択していたとしても、標準的画地の単価価格は七万五〇〇〇円になったものと推認される。)。そして、右鑑定評価の内容に、前期1(一)の説示を総合すれば、甲第一号証鑑定評価書による4号土地の標準的画地の単価価格である七万五〇〇〇円が、平成八年一〇月七日時点における本件各土地すべての標準的画地の単価価格と考えるのが相当である。そこで、右単価を基に甲第一号証鑑定評価書でなされている個別的要因による補正を行い、地積を乗じ、さらに、相続開始時点(平成四年七月二九日)までの時点修正を行うことにより、課税時点における本件各土地の時価を算出すると、別表Ⅳのとおり、その価額の合計額は、三億〇八三八万一一六七円となる。他に、右評価が特に不当であることを窺わせる事情もない。

3  そうすると、評価基本通達により算定された価額(合計四億二九一八万〇九八五円)は、右2により算定された本件各土地の価額合計三億〇八三八万一一六七円を超えるものであり、結局、本件各土地につき評価基本通達に従って課税価格を算定することが著しく不合理な結果になると認められる特段の事情があるということができるから、前記一末段に説示したところに従い、本件各土地の価額の合計額は、右2により算定された三億〇八三八万一一六七円と認めるのが相当である。

四  そこで、本件各土地の価額の合計額を右三億〇八三八万一一六七円として、原告らの納付すべき相続税額を計算すると、以下のとおりである。

1  相続税の課税価格の計算

(一) 相続財産の価額

以上によれば、原告らを含む相続人が、本件相続によって取得した各財産の価額は、別表Ⅴ「相続財産等の種類別価額表」の順号〈1〉ないし〈7〉の各「合計」欄記載のとおりとなり、その合計額は、同表順号〈8〉の「合計」欄記載のとおり三億八三一六万四九九三円となる(本件各土地以外の土地[1号土地]の価額が被告主張の七一六二万五一五一円であることは原告らも争わないものと認められ、順号〈2〉「家屋」、順号〈3〉「事業用財産」、順号〈4〉「有価証券」、順号〈5〉「預貯金」、順号〈6〉「家庭用財産」、順号〈7〉「その他の財産」の価額が同表の各「合計」欄記載のとおりであることは弁論の全趣旨により認められる。)。

(二) 課税価格

前記第二の一の争いのない事実等1記載のとおり本件相続については共同相続人間で遺産分割がなされていないから、相続人らが法定相続分(民法九〇〇条)に従い遺産を取得したものとして課税価格が計算されることとなる(相続税法五五条一項)。

(1) 原告らが取得した相続財産の価額

原告らが本件相続によって取得した財産の価額を、右法定相続分(原告山本マチヱ二分の一、原告山本英雄一四分の一)に従い取得したものとして計算すると、その金額は、別表Ⅴの順号〈8〉の各原告欄記載のとおりとなる。

(2) 債務及び葬式費用の控除

相続税法一三条一項は、相続により財産を取得した者が同法一条一号の規定に該当する者である場合には、当該相続により取得した財産について課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)及び被相続人に係る葬式費用のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定している。

本件において、債務及び葬式費用の合計額は、別表Ⅴの順号〈9〉の「合計」欄記載のとおりであるが、原告らを含む共同相続人間において各人が負担する債務等の金額は確定していないと認められるから、右法定相続分に従い負担するものとして計算すると、順号〈9〉欄の各原告欄記載のとおりとなる。

(3) 相続税法一九条による価額加算の不存在

原告らが本件相続開始前三年以内に山本清一から贈与によって財産を取得した事実はない(弁論の全趣旨)ので、相続税法一九条による価額加算はない。

(4) 課税価格

原告らの課税価格は、右(1)の相続財産の価額から、右(2)の債務及び葬式費用の金額を控除し、国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てると、別表Ⅴの順号〈12〉の各原告欄記載のとおりとなる。

2  相続税額の計算

(一) 相続税の総額

相続税法一六条によれば、相続税の総額は、同一の被相続人から相続により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額からその遺産に係る基礎控除額を控除した金額を、当該被相続人の同法一五条二項に規定する相続人の数に応じた相続人が民法九〇〇条及び九〇一条の規定による相続分に応じて取得したとして、それぞれの取得金額を算出し、これに相続税法一六条所定の率を乗じて計算した金額を合計した金額となる。

本件における基礎控除額は、四八〇〇万円と、九五〇万円に法定相続人の数(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数)を乗じた金額との合計額により算出すべきところ(相続税法一五条一項、二項)、本件相続における法定相続人の数は八人であるから、別表Ⅵ「相続税額の計算」の順号〈3〉欄記載のとおり、一億二四〇〇万円となる。

したがって、課税される遺産総額は、課税価格の合計額である三億七八六二万二〇〇〇円から右の基礎控除額一億二四〇〇万円を控除した二億五四六二万二〇〇〇円であり(同表の順号〈4〉欄の「合計」欄)、これを共同相続人の法定相続分(同表の順号〈5〉欄の各相続人欄)に応じて按分すると、その金額は、同表の順号〈6〉欄の各相続人欄記載のとおりとなる(一〇〇〇円未満切捨て)。

そして、法定相続分に応じて按分された共同相続人それぞれの金額に相続税法一六条に定められた税率を乗じると、相続税の総額の基礎となる税額は、同表の順号〈8〉欄の各相続人欄記載のとおりとなり、その合計である相続税の総額は、同「合計」欄のとおり五六四八万六二〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

(二) 原告各人の相続税額

相続により財産を取得した者に係る相続税額は、その被相続人から相続により財産を取得したすべての者に係る相続税額の総額に、それぞれ相続により財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計欄のうちに占める割合を乗じて算出した金額とされている(相続税法一七条)。

本件において、相続税の総額は右(一)のとおり五六四八万六二〇〇円であり、原告らに係る課税価格が共同相続人全員に係る課税価格の合計額に占める割合は、別表Ⅵの順号〈5〉の各原告欄記載のとおりであるから、右相続税の総額に右割合を乗じると、原告らの相続税額は、同表の順号〈9〉欄の各原告欄記載のとおり、原告山本マチヱ二八二四万三一〇〇円、原告山本英雄四〇三万四七二八円となる。

さらに、原告各人の納付すべき税額は、右算出税額から相続税法一八条ないし二一条に規定されている各種の加算又は控除を行った上で算定されるところ、右加算又は控除すべき金額はない(弁論の全趣旨)。

3  納付すべき税額

以上のとおり、原告らの納付すべき税額は、別表Ⅵの順号〈11〉欄の各原告欄記載のとおり、原告山本マチヱ二八二四万三一〇〇円、原告山本英雄四〇三万四七〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

五  そうすると、原告山本英雄に対する納付すべき税額を四二一万四八〇〇円とする本件更正処分のうち四〇三万四七〇〇円までの部分及び原告山本マチヱに対する納付すべき税額を二九五〇万三九〇〇円とする本件更正処分のうち二八二四万三一〇〇円までの部分はいずれも適法というべきであるが、右各金額を超える部分はいずれも違法として取り消されるべきである。

第四結論

よって、原告山本英雄の請求は、本件更正処分のうち納付すべき税額四〇三万四七〇〇円を超える部分の取消しを求める限度で理由があり、原告山本マチヱの請求は、本件更正処分のうち納付すべき税額二八二四万三一〇〇円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから、これを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)

別表Ⅰ

課税の経緯

〈省略〉

別表Ⅱ

1号土地ないし5号土地の所在地等及び価額の明細

〈省略〉

別表Ⅲ

本件土地の価額算定表

〈省略〉

別表Ⅳ

甲第1号証による本件各土地の価格算定表

〈省略〉

別表Ⅴ

相続財産等の種類別価額表

〈省略〉

別表Ⅵ

相続税額の計算

〈省略〉

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

〈省略〉

別紙4

〈省略〉

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